大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)827号 判決

被告人 新井修平

〔抄 録〕

ところで、原判示によれば、被告人は判示加寿子から共に死のうと持ちかけられて、これを承諾し、以て、同女をして被告人と相共に死のうとする決意を固めしめた上、判示睡眠薬を服用するに至らしめた結果、該睡眠薬の中毒により死亡させてしまつたというのであるが、判示のごとき事情の下における判示のごとき被告人の所為は、判示加寿子の自殺行為を容易ならしめたものということができるのであつて、すでに、自殺の意思をもつ者に対し、自殺行為を容易ならしめた以上、それが積極的手段によるものたると消極的なものたると、将又、有形的な方法たると無形的なものたるとを問わず、すべて、その所為は自殺に対する幇助行為というに妨げないのであつて、被告人の判示所為たるや、まさに、刑法第二〇二条にいう自殺幇助行為に該るものといわなくてはならない。してみれば、原判決が判示被告人の所為に対し、刑法第二〇二条を適用して被告人を処断したのは、まことに正当である。それで、原判決には事実誤認並びに擬律錯誤の違法あるものということができないので、論旨第一、二点の所論はいずれも採用するに由なく、右各論旨は理由がない。

註 原判決の認定した罪となるべき事実は、

被告人は昭和二十一年頃から女流画家の波多野加寿子を後援していたが、妻子ある身でありながら同女に言い寄り、昭和二十三年頃同女と肉体関係を結ぶに至り以来不倫の関係を続け、妻幸子とは昭和二十五年頃税金滞納より妻子の財産の差押を避けるため戸籍上離婚手続をしたが、その後も同棲を続け加寿子に対しては離婚したから将来同女と正式に婚姻する如く甘言を弄して同女の心を引付けていたものであるが、被告人の妻娘及び加寿子の母の知るところとなり、昭和二十七年六月二十六日頃同人等から加寿子に対し強硬に別れ話を持ち出されるに及び、加寿子としても被告人と深い関係にあり別れることも出来ず、同女から共に死のうと持ちかけられこれを承諾し、加寿子並に被告人は相共に死ぬる決意を固め、両名にてアダリン等を買求めて、相携えて諏訪市中浜町七百七十二番地旅館木村屋別館に宿泊し、同月二十九日午後十時過頃右旅館に於いて加寿子をして被告人も共に死ぬものと考えアダリン等百二十錠を服用させ、被告人自らはその際アダリン等十錠を、その二時間後位同約八十錠を服用し因つて翌三十日同所に於いて加寿子(当時三十三年)を睡眠薬中毒により死亡するに至らしめ、以つて同女の自殺を幇助したものである。

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